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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)10262号 判決 1996年2月28日

京都府八幡市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

荒井俊且

東京都千代田区<以下省略>

被告

大和証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

主文

一  被告は原告に対し、金八二万〇一二四円及び内金七四万〇一二四円に対する平成二年六月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金二七一万七〇八〇円及びこれに対する平成二年六月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、証券会社である被告の従業員の勧誘を受け、外貨建てワラント(新株引受権証券)を購入した原告が、右ワラント取引により損害を被ったとして、被告に対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、右購入代金相当額及び弁護士費用の損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  被告は、証券取引を業とする株式会社であり、原告は、訴外××不動産株式会社(以下「××不動産」という)を退職後、××商会という名称で個人で不動産仲介業をしているものである。

2  原告は、平成二年一月一八日、被告梅田支店の従業員B(以下「B」という)の勧誘により、三井物産の公募株一〇〇〇株を買ったことから被告との取引を開始した。

3  原告は、Bの勧誘により、同年五月二九日、ダイワの外貨建てワラント(以下「本件ワラント」という)二〇口を代金二四六万七〇八〇円で購入した。

4  原告は、本件ワラント取引により、前記二四六万七〇八〇円の損害を被った。

5  ワラントとは、新株引受権付社債が社債部分と切り離されて独自に取引の対象とされている新株引受権(分離型)のことであるが、ワラントが表章する新株引受権は、一定の期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定数の新株を引き受けることができる権利である。ワラントは株価と連動して値動きをするが、株価と比較して変動率の高いハイリスク・ハイリターンな商品である。国内ワラントは市場取引が行われるが、海外ドル建ワラントは、証券会社と顧客との相対取引によるうえ、為替変動の影響を受ける。またワラントは権利行使期間満了後には無価値になる。

二  争点

1  被告の責任

(原告の主張)

本件ワラントを原告に販売するに際し、被告の従業員であるBに、次の様な違法行為があった。

(一) 適合性の原則違反

外貨建てワラントは、極めて難解かつ危険な商品であり、しかも周知性を欠いていたから、証券会社及びその従業員は、大衆投資家が不測の損害を被らないよう、投資家に対し十分な情報提供を行うとともに、投資家の属性、投資目的、資産状態、知識経験等に適合する投資勧誘を行わなければならないというべきである。しかるに原告は、長年の現物株取引の経験を有するが、いずれも貯蓄目的の手堅い取引であって投機性の高い信用取引は全く行ったことはない。バブル期においてさえ、安全性の高い中国ファンドと公社債信託しかしなかったものである。Bはかかる手堅い投資傾向を有する原告に、本件ワラントの購入を勧誘したもので、適合性の原則に違反する。

(二) 説明義務違反及び虚偽ないし誤解を生ぜしめる表示

外貨建てワラントは、消費構造が複雑で危険性が高く、しかも周知性がない商品であるから、証券会社は、特にワラントについて知識を有しない一般投資家に外貨建てワラントの購入を勧誘するに際しては、外貨建てワラントの特質、危険性、商品構造、権利行使期限があり、右期限後は無価値となること、勧誘するワラントの日々の価格の知り方及び損益の計算方法等価格に関する情報等を具体的かつ個別的に説明する義務がある。かかる高度の説明義務を担保すべく、ワラント取引については、証券会社に説明書交付、取引の概要及び危険に関する事項の十分な説明、確認書徴求が義務づけられている。

しかるにBは、本件ワラント取引において、右取引以前に原告に取引説明書を交付せず、また原告が本件ワラントを購入する際、原告に対し、本件ワラントがアメリカドル建てであり、為替によって価格が変動すること及び売買代金が日本円で約二四六万円であることを電話で述べただけで、ワラント取引の仕組みやその危険性、行使期限がありそれ以後は無価値となること、ワラントの日々の価格の知り方及びその損益の計算方法等の重要事項について殆ど説明せず、ワラントをワラント債と称して、本件ワラントが額面償還が保証された社債の一種であるかのように原告を誤信させて勧誘し、原告に本件ワラントを購入させた。

(被告の主張)

(一) 適合性の原則について

原告は、長年にわたって不動産取引に携わり、定年退職後も独立企業の取引をおこなっている取引のベテランである。原告は、昭和五七年ころから証券取引を開始し、被告と取引する以前にも、他の証券会社と証券取引の経験があり、講演会に出向いたり、日経新聞、会社四季報等を見たりして証券取引について研究し、被告と取引を開始した後も、一般に馴染みの少ない小型株の取引をする等証券取引について一定の知識と経験を有している。したがって、Bが本件ワラントを原告に勧誘したことは何ら適合性の原則に反しない。

(二) 説明義務違反及び虚偽ないし誤解を生ぜしめる表示について

(1) 証券取引法五〇条一項は、証券会社に対して投資家の自由な判断に基づく証券取引を妨げるような不当な勧誘行為を排除することを求めているのみであって、積極的に投資家に知識を形成させる義務までも課していない。

(2) 仮に証券会社に説明義務があるとしても、その説明の程度はワラント取引を行うのに必要な程度にワラントの内容と特質を知らしめることで十分であり、ワラントの学問的専門的事項についてまで説明する義務はない。

(3) Bは原告に対し、平成二年五月二九日、まず電話で本件ワラントを紹介したが、その際原告から「ワラントとは何か」との趣旨の質問を受けたので、本件ワラントの概略を説明した。その後Bは同月三一日の電話や原告が被告に来店した日にも同様に説明した。Bの説明の内容は、ワラントの特質、行使期間があり、期間が経過したら価値がなくなること、価格は株式と連動し、株式より値動きの大きいこと、ポイントと日本円への計算式等について説明したもので、何らの説明義務違反はない。

Bが、本件ワラント購入に際し、ワラント債であると説明したことはなく、本件ワラント購入後、被告は原告に対し、本件ワラント取引報告書を送付し、原告から買い付け代金の振込があった時点で本件ワラントの預かり証を交付しているのであり、これによっても本件取引が株式や転換社債でなく、ワラントであることは容易に判明している。

2  原告の損害

原告は、本件ワラントの購入代金二四六万七〇八〇円の損害を被ったとして、右金額及び弁護士費用二五万円の支払いを求めた。

第三争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び証拠(甲一、二、五の1ないし4、乙一ないし四、五の1ないし6、六ないし九、一〇及び一一の各1、2、一二、B、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件ワラント取引に至る経緯

(一) 原告は、関西大学法学部を卒業後、××不動産で不動産仲介の仕事に携わっていたが、昭和六一年に右会社を退職し、昭和六三年ころより××商会という名称で、個人で不動産仲介業をしている。原告は、二四~五年の証券取引の経験を有し、昭和五八~九年ころまで角丸証券と取引があった。原告の取引は主に株式、国債、割引債券、中国ファンドの取引であり、信用取引の経験はなかった。また原告の大阪支店とは、これまで店頭で、公社債投資信託、中国ファンド等の取引をしていた。また日経新聞や会社四季報を見たり、講演会に出向いたりして証券取引について関心を持っていた。

(二) 平成二年一月ころ、被告の梅田支店の従業員であるBは、証券取引を行う顧客を勧誘するため、会社のリストに基づき、訴外××産業株式会社(以下「××産業」という)に電話したところ、留守番をしていた原告が応答した。Bは、原告に対し、証券取引を勧誘したところ、原告は証券投資に関心のある態度であった。Bは、当初原告を××産業の役員と考え、同日ころ、××産業を訪ね、そこで原告から、××産業の役員ではないが、××不動産を退職後××商会の代表者をしていると聞き、名刺を貰った。その際Bは、手持ちの資料等を示して、新規発行株である三井物産の株式の購入を勧誘したところ、原告は同月一八日右株式一〇〇〇株を購入した。その後原告は、Bの勧誘により、同月三〇日チェーンストアオークワの株式を一〇〇〇株、同年二月一五日キッセイ薬品の株式一〇〇〇株を、同年三月一四日グルメ杵屋の株式一〇〇〇株を被告から購入した。また本件ワラント購入後の同年五月三一日DBSランドの株式一五〇〇株を、同年六月二八日ドイツバンク二〇口を購入した。

(三) Bの勧誘の方法は、大半は電話であり、最初に経済情勢や平均株価の推移等の話をしてから、商品の特質について説明し、具体的な銘柄を挙げて勧誘した。原告と被告の右取引のうち半分は新規発行株式で、プレミアムを利益として取得できる商品として一般投資家に好まれていた商品であり、また原告の購入した商品は、資本金の少額な一般に馴染みのない小型株であった。原告はBの説明を聞き、有利だと判断して株式等を購入した。

(四) そのころの証券市況は、平成元年一二月末日までは上昇を続け、平成二年一月始めから急落し、下落の一途を辿ったが、同年五月末ころから七月にかけて反発反騰の気配がみられた。原告は、同年五月六日チェーンストアオークワの株式を、同月三〇日キッセイ薬品の株式をいずれも損失のうえ売却した。

2  本件ワラントの勧誘状況

(一) Bは、同年五月二九日ころ原告に電話し、「ワラントを買いませんか。」と言って本件ワラントの勧誘を行った。その際原告はBに対し、「ワラントとはどういうものか。」と質問したので、Bは、ワラントは株式を最終的に買える新株引受権であること、株式の値動きに連動し、株式より値動きが大であること等転換社債を引き合いに出して、ワラントの概略や仕組みについて説明した。また外貨建てで為替レートによって価格が変動することや本件ワラントの数量が一〇万ドルで、ポイント数は一六・五〇であること及び為替レートを掛けると日本円で幾らになるのかの話もした。しかしその際、権利行使期限があり、行使期間が過ぎれば無価値になるとの話はしなかった。Bの勧誘により、原告は同日本件ワラント二〇口を購入した。

(二) 被告から、本件取引の翌日ころ、原告に対し取引・応募報告書(以下「報告書」という)が、同年六月四日ころ入金後預かり証(甲二)が送付されたが、これらには原告が購入したのはダイワの外貨建てワラントであること、また報告書には、原告が購入したワラントの銘柄、ポイント、支払金額、為替レートが、預かり証には、権利行使最終日が一九九三年(平成五年)九月二七日である旨記載されていた。

(三) 被告においては、初めてワラントの取引が成立すると、顧客に対し外国証券取引口座設定約諾書(以下「約諾書」という)、国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書(以下「確認書」という)を送付し、これに顧客が署名・押印して差し入れることになっているが、原告に対しても、そのころ約諾書や確認書が送付された。

(四) 約諾書については、原告が平成二年六月四日の日付を書いて署名・押印していること、右確認書には、取引の約定日である平成二年五月二九日と鉛筆で記載されていたが、原告は、平成二年六月四日、キッセイ薬品の株式の売却代金からDBSランドの株式購入代金を控除した八六万四七九九円を受け取りに梅田支店に行った際、被告に対し、右約諾書と確認書を被告に差し入れ、その際被告の係員が六月四日の日付を書き入れた。確認書には、説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラント取引をする旨記載されている。またその当時被告において、分離型ワラントと題する説明書若しくは外国新株引受権証券(外貨建てワラント)取引説明書が発行されていたが、右説明書や取引説明書には、ワラントは行使期間が過ぎれば無価値になる旨の記載がある。

(五) 本件ワラントは、購入後、反発反騰の予想に反して、購入時まで上昇していた価格が下落をし始めた。一方原告と被告の取引は、本件ワラント取引後も、平成三年七月ころまで続き、その間Bは原告に本件ワラントの売却を勧めたが、原告は様子を見るといってこれに応じなかった。平成三年四月ころになると、本件ワラントは四ポイント以下に下落したため、原告は被告に抗議するに至った。また本件ワラントは、行使期間の経過により無価値となった。

3  原告の供述について

(一) 原告は、Bからワラント債を買ってくれといわれたので、Bに転換社債のようなものかと尋ねたところ、Bはそのようなものだというので、外国で発行する転換社債のようなものだと思って本件ワラントを購入したと供述するが、Bは、被告におけるワラントの研修を数回受けており、被告会社の配付物等でワラントとワラント債の区別はついていた(Bの供述)こと、原告も本件ワラント購入以前に新聞でワラント若しくはワラント債の言葉は見たことがある(原告の供述)こと、前記認定のとおり、Bは、ワラントは転換社債と類似点があるので、転換社債を引き合いに出して説明したこと、報告書や預かり証には、本件取引がワラント取引であることが明示されていること、それにもかかわらず、原告は平成三年四月ころまでBに文句や異義を言っていないというのであり、かかる事実に徴すると、ワラント債を買ってくれと言われたとの原告の前記供述は信用できない。

(二) また原告は、確認書(乙三)は、Bに呼ばれて同日梅田支店に行った際、Bは不在で、女子職員から、言われるままに内容も確かめずに署名・押印したものである、ワラントについてもドル建てで買うので為替レートによって違うと聞いただけで、何の説明も受けていない、取引説明書は、平成四年一〇月一九日に初めて送付された旨供述するが、確認書及び約諾書の日付である平成二年六月四日には、前記のとおり別の取引での金銭授受のため原告は被告梅田支店に来店していることや確認書が被告梅田支店の印鑑照合係に回付されたのは同月五日となっていることからすると、確認書は同月四日に被告に差し入れられたと推認できること、長年にわたって不動産仲介をし、証券取引の経験も豊富な原告が、内容も確かめずに、確認書に署名・押印したとは考え難いこと、また確認書には、取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラント取引をする旨記載されており、そのことから取引説明書が原告に送付されていると推認できること、Bがドル建ての場合為替レートによって違うことについてだけ説明し、その他ワラントについての説明を全くしなかったというのは不自然であること、Bの勧誘方法は、経済情勢や商品の特性を説明して購入を勧誘する方法であり、原告は、右説明を聞いて有利だと判断して新規発行株式や小型株をBから購入していたのに、ワラントだけは説明も受けずその内容も理解せずに購入したというのは不合理であること、被告においては平成元年一〇月以降支店から、平成二年以降は本店から毎月九月末にワラント取引のある顧客に対し、国内ワラント取引説明書と外貨建てワラント取引説明書のセットを送付しているが、原告にも平成二年九月二八日右取引説明書が送付されている(乙一三の1)こと、その後平成三年及び平成四年九月三〇日に同様に取引説明書が原告に送付されている(乙一三の2、3)こと、原告が初めて送付されたと主張する取引説明書(甲三三の1、2)は平成四年度送付分と認められるのであり、これらを総合すると、原告の前記供述は信用出来ない。

二  被告の責任の有無

以上認定の事実を前提に、原告主張のような違法があるか否かにつき判断する。

1  適合性の原則違反について

一般に証券取引はリスクを伴うものであるから、自己の責任においてなすべき(自己責任の原則)であるが、ワラントは一般に馴染みがなく、商品構造が複雑な金融商品であるから、年齢、職業、投資経験等からみて、取引の危険性の有無・程度等について、自ら判断する能力がないと認められる投資家に対して、ワラント取引を勧誘した場合には、勧誘行為が違法となる場合があるというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告は長年にわたって不動産仲介に従事し、定年退職後も個人で不動産仲介業を行う等、十分キャリアのある経済人であること、原告は、信用取引の経験はないものの、証券取引について豊富な経験を有し、本件ワラント購入まで他の証券会社や被告から中国ファンド、国債や株式を購入していること、また原告は、被告梅田支店との取引において、一般に馴染みの少ない小型株の取引を行っていること、原告の取引方法は、Bの説明を聞いて有利だと判断して購入しているのであり、かかる原告の投資経験、投資傾向、知識等からみて、原告が右に述べたような判断能力がないとは到底いえない。

したがって、原告にワラント取引を勧誘したこと自体が適合性の原則に違反したとはいえない。

2  説明義務違反

ワラントは前記のとおり、ハイリスク・ハイリターンの特質を有し、一般に馴染みがないから、証券会社またはその社員は、ワラント購入を勧誘するに際して、投資家の職業、年齢、投資目的、投資経験等に照らして、投資家がワラントの危険性、商品構造等についての正当な認識を形成するに足りる情報を提供すべき義務がある。

これを本件について検討するに、前記認定の事実によれば、Bは本件ワラントの購入を勧誘する際、原告に対し、当初電話でワラントが新株引受権であり、最終的に新株を取得できる権利であること、株価と連動し、株価より値動きが大きいこと等のワラントの仕組みや外貨建てワラントの特質について説明したが、権利行使期間があり、行使期間を経過すると零になるとの説明はしなかったこと、しかも本件取引成立後にワラント取引説明書の交付をし、約諾書や確認書を徴求しているのであって、Bについて、本件取引勧誘に際し、権利行使期間の危険性についての説明義務違反があったと認められる。

(これに対しBは本件ワラントの取引成立後入金(同年六月一日)前に、電話で原告に対し、ワラントの前記仕組み、特質、権利行使期間が満了すれば無価値になること等を説明した供述するが、前記のとおり、同年五月三〇日には原告はキッセイ薬品の株式を売却し、翌三一日にDBSランドの株式を購入しているが、その際に既に取引の成立したワラントについて説明するというのは不自然であり、また供述の内容も曖昧であって信用できない。)

したがって、Bの使用者である被告は、原告に対し、後記の損害賠償責任を負うというべきである。

三  損害について

原告が本件ワラント取引により二四六万七〇八〇円の損害を被ったことは当事者間に争いがないが、前記のとおり、原告はBから、権利行使期間の危険性以外のワラントの仕組みや特質、外貨建てワラントの特質について説明を受けていること、取引後原告に送付された預かり証や取引説明書には権利行使最終日や右期間が満了すれば無価値になるとの記載があったこと、原告は、自己の判断と責任においてワラント取引をする旨の確認書を被告に差し入れていること、本件ワラント購入時の株式市況は、反発反騰の見込まれる時期であったこと、原告の経歴や証券取引の経験からすると、ワラント取引は、少なくとも株式取引よりリスクが大きいことを理解していたと認められること、それにもかかわらず、原告はBから、電話でワラントの購入を勧められるや、ワラント取引が初めてであるのに、その内容等について調べることなく、即日本件ワラントを購入したものであること、権利行使期間の危険性について後に知ったが、Bに対しこれについて質したり、売却する等の方法を取っていないのであって、かかる事実を総合すると、原告は値上がりを予想して本件ワラントを購入したが、予想に反し、株価は上昇せず、下降の一途を辿り、権利行使期間の経過により本件ワラントは無価値となったというべきであり、本件ワラント取引における損害発生について原告にも過失があったと認められ、その割合は七割と認めるのが相当である。

したがって、原告の損害は七四万〇一二四円となる。

また本件事案の内容、認容額等諸般の事実を勘案すると、弁護士費用として八万円を認めるのが相当である。

四  結論

以上のとおり、原告の請求は、金八二万〇一二四円及び内金七四万〇一二四円に対する不法行為後の平成二年六月一日から支払い済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奬積良子)

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